ナルシス
ホテルのレストランでテーブルを囲む。

夕璃の明るい声は止まらない。

学校のことや友達のことを嬉しそうに話す。


今まで夕璃の友達さえ知らなかった徹。

こんなに何でも話してくれるのに。
 


「お正月は、三人でハワイに行こうか。」

徹が言うと驚いたのは夕璃だけではなかった。
 
「本当に?お店大丈夫なの。」

目を潤ませて光子が言う。
 

「どうせ正月休みだから。あと二日くらいなら朗に任せても大丈夫だよ。」

仕事は誰かに任せられる。


でも家族は自分だけのものだから。

『これからは色々連れて行くよ。』

笑顔で頷く徹に、夕璃は声も出ない。


「パスポート更新しないとね。明日、旅行会社に予約しておくからね。」

二人をハワイに連れて行ったのは、まだ夕璃が幼稚園の頃。

それからはどこにも旅行していない。

こんなに裕福なのに、なんて貧しい家族だったのだろう。
 


「嬉しい。早く行きたいよ。」

子供のように体を揺らす夕璃。
 
「ユーリは痩せっぽちだから、水着は似合わないな。」

徹がからかうと、
 
「パパ、ひどい。いいよ、胸が大きく見える水着買うから。」

と夕璃は頬を膨らませた。

 
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