ナルシス
徹とは同士だと思うようにしていた光子。

店に出ていると、光子に熱を上げてくれるお客さんもいる。

だから、徹に求められなくても、まだ終わったわけではない。

ずっとそう思っていた。
 


でも光子は、一度も徹を裏切らなかった。

夜遊びをしている頃も、店に出てからも。


光子に言い寄る人は何人もいたけれど。

決して近付けなかった。



徹を愛していたから。

いつか元の二人に戻れると、信じていた。
 

一度でも他の人に許したら、光子は徹を受け入れられなくなると思っていた。

たとえ遊びでも。

触れない徹への仕返しでも。


裏切ることは自分を曇らせると思った。

正面から徹の目を見つめられなくなると。
 

だからずっと徹だけを待っていた。

必ず戻ると信じて。

その日のために自分を磨いて。


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