ナルシス
徹にとっての光子と、光子にとっての夕璃は同じなのに。

光子は自分の寂しさを優先する。

夕璃が同じように寂しいことには気付かない。



それでも夕璃は光子が好きだった。

多分、光子もまた、徹を求めていたのだろう。
 


小さな夕璃が一人、部屋を散らかし、寝転んでおやつを食べたのは、ささやかな反抗。

夕璃の不満に気付いてほしかったから。



夕璃を置いて出かけることは、光子の反抗だったのか。

徹が寂しさに気付くように。
 


でも徹は変わらない。

ため息混じりに苦笑するだけで。


光子が散らかった部屋を見た時と同じように。

光子は叱ってほしかったのかもしれない。

どんなに叱られても、その後で抱きしめて側にいてくれればいい。

夕璃が思っていたように。
 
 
< 9 / 90 >

この作品をシェア

pagetop