トワイライト(下)
それは初めて見る彼の意外な一面性だった。
洗い物をする自分の背後から腕を伸ばして腰元に回し、肩に頭を乗せながら耳元を擽るように戯れている。
「洗い物なんて後でいいから、先にお風呂してきて……」
「で、も……まだ、片付いてない、から……気になる、し……」
既に洗い物を終えた手は出しっ放しの水に打たれたまま、戸惑いながらも伸ばした指先を右手が越えた瞬間に静かな声が囁いた。
「茅紗が欲しいから早く行って来て……」
「な、に言ってるの……?」
ぽたり、ぽたりと響く水の音が執拗に響いて聞こえ、その煩わしさに息を飲み込んだ瞬間にも言葉は放たれる。
「一緒に入ろうか……」
「そ、れは……ちょっと……無理……」
冗談か本気かも取れない口振りに身を屈め、距離を詰めてくる身体を押さえ込む。
密着された隙間の無い場所から抜け出すことも出来ず、その抵抗も空しく成すがままに唇が重なる。
けれど、それは僅かに触れただけで目の前には相変わらずの顔が見えた。
「ごめん……茅紗が可愛くて、少し困らせて見たくて……」