トワイライト(下)

これほどまでに不意の言葉が嬉しいなど思っても見なかった。

彼は自分が求める言葉を欲しい時に語り、その唇で優しく重ねて伝えてくれる。

それが、どれほど胸を騒がせるのか、恐らく彼は知らない。

でも、一方的でない事だけは確かだった。


「ごめん……遼葵、お風呂入ってくるから、離して……」

「あ……ごめん……逆上せないように、ゆっくりしてきて……」


ゆっくりと身体を離して彼は此方を眺め、名残惜しそうな顔をしている。

多分、自分も同じ顔をして彼を見ていた。

目が合った瞬間に照れて笑ったり、キスをして額を寄せ当てたり、息が掛かる距離で交わす言葉すら恋しい。


「早く窓閉めないと風邪ひくよ?」

「ごめん、上がるまでには閉めておくから」


手の平を撫でるように去る指先、煙草を手にして火を点ける仕草、上がる煙りに険しくなる表情。

眉尻を下げて此方を眺めた途端に上がる口角、笑い返すと照れたように煙草を吸って誤魔化す横顔に揺れるピアス。

どの一瞬でさえも好きだと言えるほど彼に恋煩いをしていた。
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