トワイライト(下)
次の日、気怠い身体を奮い立たせて起き上がると、隣に居るはずの姿が見当たらずに視線が彷徨い始める。
静まり返ったリビングにテーブルの上は昨日のまま、乱雑に剥かれたカートンのフィルムが風に揺れながら朝日を浴びて瞬いていた。
携帯を手にして確認するとメッセージと着信履歴が一件残されており、何気なく開いて目に飛び込んだ文章に笑みが零れ落ちる。
【おはよう、少し用事があって店に行くけど、昼前には戻るから心配しないで】
そのまま着信履歴も確認せずに身支度を整え、部屋中を指差し確認しながらリビングを後にしてマンションを抜け出す。
通い慣れた道程を歩きながら肌に触れる生温かい空気を感じ、髪の毛を抜ける風や目に映る穏やかな日差しに春の訪れを感じていた。
足の向くままにビルの中へ潜り込み、見慣れた斜め向かいの店舗を眺めて店の中へと進む。
すると、直ぐに此方に目線を向けて彼女が言った。
「休日に何の用?彼を迎えに来るには早すぎよ」
「何か気になって……」
昨日とは打って変わった平日の店は客など一人も見えず、彼女も暇を持て余したように春のメニュー表を整理している。
「全くお人好しなんだから、あんたが居なくても平日くらい乗り切れるわよ」
そう言って彼女は呆れた溜息を零して可愛らしい笑みを浮かべた。