トワイライト(下)

それから事務室に入って谷口の席だった椅子に腰を掛け、部屋に貼るポップを作成したりして時間を潰していた。

その様子を彼女は事務室のドア越しに背中を持たれて眺め、ふと店先に視線を投げて言葉を吐き出す。


「あんた、まさか夕方まで居るつもり?店の事より家事でもしなさいよ」

「毎日してるよ、でも余りしなくて良いって言われて……」

自分の言葉に彼女は首を竦め、茶化すような口振りで言った。

「あら、随分と可愛がられてるのね、羨ましい」

「可愛くは無いよ……でも、大事にしてくれてるのは良く分かる……」

そう言った途端に彼女は自分の手からペンを取り上げて優しい眼差しで語る。

「だったら尚更、早くお家に帰って頂戴、呼び出されてもないのに店に居たら疑われるわよ」


頷き掛けた自分の手を容易く引き上げ、柔らかく背中を押し出す彼女。

「今度、あんたに私の"彼氏"紹介するわ、一緒にご飯でも行きましょ」


そんな口約束をして店を追い出され、進まない足を急かすように短い着信音が響く。

【いま店出る所だけど、一緒に買出し付き合って、着いたら鳴らすから】

メッセージを眺めてる間に彼の声が聞こえてきた。

「茅紗?」
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