トワイライト(下)
『いい加減にして……マジで……』
いつもよりも低い声が鼓膜を震わせ、一瞬にして目を覚ました時には頻りに携帯が鳴っていた。
窓辺に面して置かれた木製テーブルの上、忘れ物の煙草のフィルムが太陽に反射して鋭く光る。
白地に青の表面を漸く目に捉え、覚束無い手で携帯を耳にした。
「おはよう、私よ、休みの所悪いけど出て来れないかしら?」
「どうしたの?」
電話の向こう側は酷く騒がしく、彼女は気が滅入ってるような声で語り掛けてくる。
「バイトの子達が全員休みで手が回らないの……お願い出来ない?」
「分かった、直ぐ行く」
「ありがとう、助かるわ……タクシー使って来て頂戴、チケット支給するから」
此方が何か言う前に早々に彼女は電話を切り、その様子にカレンダーを眺めて店の状況を把握した。
日付は二月十四日で学校は休み、通常よりも騒々しく慌しい事が伺える。
寝室のクローゼットから適当に服を取り出して着替え、戸締りを指差し確認して部屋を出た。