トワイライト(下)

かさついた手で額に触れた後、自身の額に当てて軽く首を傾げながら続ける。

「熱は無いみたいだから大丈夫だと思うけど、早めに済ませようか」

結局、その日は彼の言いなりにベッドに入らされ、新しく買った携帯の設定も買い出した食糧や日用品の片付けさえ手出しするのも許されず、肝心な部分を問えないまま夜は更けて時間だけが過ぎて行った。

殆ど眠れないままに微睡む瞼で瞬きを繰り返し、柔らかく包み込む腕を静かに離してベッドを抜け出す。

テーブルの上に置かれた色違いの携帯を目に捉え、赤と青が混ざり込んで群青色に染まって見えた。

重い瞼と身体で浴室に入って顔を洗い、歯を磨き出す合間に思考が沸々と起き上がってくる。

まだ目覚める気配の無い彼は殆ど眠れて無いと思われ、自分が寝室で身支度を整える間もリビングで化粧をしてる時ですら深い寝息が聞こえていた。

起こさないように軽く指差し確認をし、バッグの中身を一通り眺めていると背後から不意に抱き締められ、少し眠そうで不機嫌な声が耳元に落ちてくる。


「おはよう……今直ぐ着替えて……遅刻しないように送って行くから……」

「悪い、から……いいよ、走れば間に合うし……」


その腕は容易く抜け出せたものの気まずい空気が漂い、彼はソファーに掛けた服に袖を通しながら長い息と共に吐き出す。

「いい加減に自覚して、茅紗が考えてる以上に周りの目は異常だから」

「ごめん……なさい……少し考え事してて……」
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