トワイライト(下)
「ねぇ……遼葵……どうし、て……」
シフトノブを持った親指で人差し指の腹を蹴り続けるのを目にし、それ以上は口を挟むなと言われた気がして俯く。
ドアに手を掛ける気力さえ無くして佇み、食い下がれない自分に唇を嚙んでいた。
「早く行って、時間無いから」
いつもは開けて貰える助手席のドア、挨拶も無しに閉めた自分を彼は黙って見ている。
罰の悪そうな顔に伸ばし掛けた腕を彼は少しだけ首を振って制した。
耳元でピアスが軽く揺れ、首元の弛んだネックレスを直した手がハンドルを握る。
その瞬間、彼が『これは嘘だ』と示してる気がした。
もし、あの言葉が本音だとすれば同じピアスもネックレスも身に着けたりなどしない。
何処にも自信は持てないけれど、恐らく彼は態と自分に見せつけている。
煙草を持つ手の中に見える銀色のジッポ、火を点けた後で表面を親指で撫でる仕草が伝えていた。
急に速度を上げて走り去る車を見送り、ビルに潜り込んで店へと向かう。
「おはよう、今日は5分以上遅刻よ、暢気なのは良いけど、少し気を引き締めて頂戴」
「分かってる」
受付で準備をする彼女と短い会話を交わし、更衣室で着替えをしながら考えていた。