トワイライト(下)
何故、彼が別れを言い出したのか、幾ら反芻してみても思い当たる節は自分の服装のみ。
それにしても咎めただけで此方の事を汲み取ろうとまでしていた。
原因など全く見当たらず、不鮮明な出来事も解明出来ずに更衣室を抜け出す。
一体何が在ったのか問い質そうと携帯を手にし、今一つ勇気が出ないままポケットに忍ばせて受付に立つ。
その時間は酷く長い刑期を科せられたように感じられ、平日を物語る客入りの少ない店内で行う業務は殆ど無かった。
昼休みを早々に終え、店先で斜め向かいの店舗を眺めて溜息が落ちる。
今頃、彼は部屋で荷物を纏めたりしてるのかもしれない、などと妙な想像をして店内に戻り、再び受付に入ってクロス片手に部屋の掃除に回った。
谷口に徹底的に厳しく指導された部屋の掃除は余計な事を忘れられる。
テーブルの位置からメニュー表の順番、機材の配置や機械の調整に至るまで指摘されたのが役に立っていた。
けれど、時間は僅かに過ぎ去っただけで店内の時計を眺めて大きな溜息が零れ落ちる。
未だ報せの無い携帯を眺め、待ち望んでいる自分に苦笑いした。
既に四分の一が経過した状態で何をしてるのかも把握出来ない、もしかしたらと邪に考えながら尚も想い続けている。
「何なのよ、さっきから携帯ばかり見て、あと一時間じゃない」
そう言って笑う彼女に再び背中を叩かれた気になり、笑い返した顔は自分でも分かるくらい不恰好な物だった。
そんな自分を彼女は眉尻を下げて見つめ、ふと小さい溜息を洩らして言う。
「今週の金曜空けておいて頂戴、あんたの好きなお寿司屋予約しておくわ」