トワイライト(下)
着替えを終えて彼の元へ行くと、直ぐに手を引かれて駐車場まで導かれ、自然に助手席が開かれる。
前とは違う小部屋のような狭い車内に乗り込んで来た途端に彼が言った。
「茅紗、驚かないでって言っても無理だろうから、落ち着いて聞いて……」
その言葉に一つ頷いて返すと、彼は不恰好に笑って語り始める。
「薄々は気付いてると思うけど……前々から付き纏いされてて、盗聴器みたいなのが車に在ったから、茅紗に被害が行かないように言葉で示すしか無くて……ごめん」
それは驚くというよりは恐怖感しか持てず、自分が見えない所で彼が全て背負って居たのかと思うと身を縮めるしかなかった。
「ごめん……なさい……気付かなくて……私……何も出来なかった……」
「茅紗のせいじゃない、もう……多分、大丈夫な筈だから、被害届も出して来たし、車も変えて来たし、思い付く限りだけど……」
彼が言うのは簡単な事では無く、今なら携帯を変えた理由さえ分かる。
そんな人に掛ける言葉など見つからなかった。
「……遼葵……良かった……何も無くて……」
言葉など何の役にも立たなくて想いは温もりを求め、その手にしても更に強く掴んで傍に居ることを確かめて居た。