トワイライト(下)
それから食事をして先に終えた彼が煙草を指に挟んだまま頬杖を付き、眠そうな眼差しで此方を見る様子に心拍数も和いでいた。
その間にテーブルの上にブルーハーブティが置かれ、ガラスポットの中で濃い紫の茶葉が舞うのを眺めていると、ささくれた指先がポットに掛けられてカップに静かに注がれていく。
ガラスカップに沈んだレモンに反応したハーブティが鮮やかに色を変え、彼は一口だけ含んで此方に差し出した。
思い出の一杯を手にして飲み込み、口内に広がる香りに顔が綻ぶ。
彼の目線は手にしたカップを捉え、指に煙草を挟んだままジッポに触れていた。
自分を眺めて頼りなく笑う顔に思わず声を掛ける。
「早く帰ろ、明日も仕事なんだし……」
「明日は少し遅い出勤だから、気にしないで、ゆっくり飲んで」
そう言って再び頬杖を付く顔は今にも寝そうな目をしていた。
急ぎ気味に口にしていると、ふと鼻で笑って彼が言う。
「ちゃんと味わってる?せっかく連れて来たのに……」
「でも、眠そうだし……また一緒に来ようよ……」
少し不貞腐れた様子だった彼は小さく頷き、煙草を消して伝票を持ったかと思うと、財布を取り出して気まずい表情を浮かべて言った。
「ごめん……頭金払って中身確認しないまま来たから、支払いして貰っていい?」