トワイライト(下)
レジで支払いをする間に何気なく傍で佇み、さり気なく先を進んでドアを開けて待ち、車までの僅かな道程を彼は一歩下がって足を運ぶ。
それは丁度良い距離の隙間で心地良く、互いに譲り合って照れながらも恋人として寄り添う間隔だった。
「茅紗」
不意に呼ばれた声に振り返ると此方を目掛けて何かを投げ、手にした瞬間に彼の言葉が聞こえてくる。
「忘れ物して取って来るから、先に乗ってて」
軽く頷いて見せると店先から恰幅の良い女性が彼に駆け寄って言った。
「遼葵、忘れ物」
「ありがと、今取りに行くところだったから、すれ違わなくて良かった……」
呼び慣れたように名前を口にする女性を前に彼は安堵の笑みを零している。
「危なく客に持ってかれるとこだったわよ、もう名前書いて置きなさいよ」
「ちゃんと書いてあるから……ほら、ここの羽根の所に上手く彫られてる」
一見、仲睦まじい恋人のように見えるものの、何処と無く府に落ちずに様子を伺っていた。
「暗いから良く見えないわよ、もう忘れないようにしないと、彼女にも迷惑が掛かるんだから、しっかりしなさい、幾つになったと思ってるの」
「分かったから、早く行って」
女性の言葉に彼の母で在ることを知り、その現実に慌てて深く頭を垂れる。
「そんな固くならないで、遼葵の事お願いね、茅紗さん」