トワイライト(下)

優しい笑みを浮かべて投げ掛けられた言葉に照れてしまい、まともに挨拶も交わせずに見送った時。

背を向ける女性の目の前を男性が駆け寄り、対面したと同時に素早く身を交わして足蹴にした。
前のめりに男性は道路に寝転び、突っ伏したかと思うと女性が腕を捻り挙げて彼に告げる。


「何してるの、此処は良いから早く帰りなさい」


そう言って軽やかに笑う母親を彼は一瞥し、怪訝な面持ちをしながら自分に向かって言った。


「いつもの事だから気にしないで……行こう」


何事も無かったかのように彼は腕を引いて歩き、自分の手から鍵を取って助手席を開ける。
説明の一つも無いままにエンジンを掛け、揉め合う二人の脇を車が無情に通り過ぎて行く。

彼の母は男性の腕を捻ったままで片手を振って見せ、全く状況の掴めない自分は助手席で唖然とするしかなかった。

暫く車を走らせながら彼は欠伸を繰り返し、少し窓を開けた後で煙草に火を点けて吹かし始める。

「ねぇ……遼葵、本当に大丈夫、なの?」


耐え切れずに声を掛けると、目が据わったような面持ちで耳にしてないようだった。

「ごめん……余計なお世話だった……」

「ん、あぁ、ごめん……茅紗に変なとこ見せたなと思って……本当にごめん……」
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