トワイライト(下)

通常であれば休日だった筈の貴重な時間を割き、自分に気を遣う彼に何かをしてあげたいと思った。

終始、眠そうな目をしてる顔を眺めて余り話し掛けないようにし、携帯を取り出して眺めると着信履歴が何件か残っており、確認しようと触れる指先を止めるように彼の声が聞こえる。


「さっきの事だけど、茅紗に言ってなくて驚かせて、ごめん……」

「ううん……大丈夫……」


疲労の見える顔に口に出来る言葉は他に思い付かなかった。


「もう気付いてると思うけど、女の方が俺のお袋で、男の方は義理の親父……茅紗と知り合う前に再婚して、年の差夫婦でお袋の方が上、あの店は親父の爺さんが経営してるんだけど、親父が遊んでばかりだから……さっき見た通りの状態、だから気にしないで」


それなのに彼は此方に伝わるように家庭環境を語り、その複雑さに口を閉ざして育って来た日々を思い浮かべる。

けして比べることは出来ないけれど、片親が居ないのは一緒で苦労してるのも同じだった。

「私ね、母親が居ないんだけど、小さい頃に突然失踪して……幼稚園の頃で良く分からなかったけど、多分……仕事ばかりの父が嫌になったんだと思う、本当の理由はあるのかもしれないし、聞かないほうが良いと思って、そのまま……」

話し終えた時、彼は酷く悲しそうな面持ちをし、そっと自分の手を包み込む。
そのまま見慣れたマンションの駐車場に車は停まり、エンジンを切った後で彼は静かに告げる。

「ありがとう、言い難いこと話してくれて……この後、寝ながら話そうか」
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