トワイライト(下)
彼が自分の身体を優しく制した途端、やたらと鋭い視線を向けて父が言葉を発した。
「何時間待ったと思ってる、早く部屋に入れてくれ」
「済みません……立て込んでいて遅くなりました」
威圧的な態度を冷静な言葉で宥めながら彼はドアを静かに開いて佇む。
我が物顔で進む背中を眺めて小さく『ごめん』と呟き、部屋に進む肩越しに優しい手が軽く触れた。
リビングに足を運んだ父は舐めるように見回し、まるで定位置のようにソファーに腰を掛ける。
両脇に沢山の土産物を置き、窓辺で腰を下ろしそうな彼に声を掛けた。
「まぁ、楽にしてくれ」
主みたいに振舞う父に珈琲を差し出し、嫌味の一つでも口にしようとした時。
「初めまして、安田遼葵です、手塚さんとは一ヶ月程度の付き合いですが、見ての通り一緒に暮して居ます、挨拶もせずに済みません……」
軽く頭を下げて真っ直ぐ見つめる彼を父は黙って眺め、胸ポケットから煙草を取り出して火を点けて吹かす。
ふわりと上がる白い煙りが目の前を霞め、そっと窓を開ける彼の手が僅かに震えているのが見えた。