トワイライト(下)

「お前、モテるだろ」


父は険しい顔をさせながら茶化すような口振りで問い、彼は少し戸惑いがちに目を見て応えた。


「自分が想っても居ない所から良く声は掛けられます、でも全く興味が持てません」


強い口調の語尾に父は思い切り眉を潜め、煙草を手にしたまま考えるように黙り込む。
狼煙のように燻る先が赤く灯り、白い紙が小さな円を描いて長い灰を作っていた。

先が零れそうな部分に彼は灰皿を差し出し、そのまま煙草を押し付けて父が再び問う。


「お前、酒は呑めるか」

「普段は全く呑みません」

「じゃぁ、今度付き合え」

短い会話を交わした後、父が土産物の中から酒をテーブルの上に置き、それを見ていた彼が告げる。

「楽しみに取って置きます」

その言葉に父は少しだけ口角を上げ、此方を見もせずに告げた。

「茅紗、そろそろホテルに戻るからタクシー呼んでくれ」

言われるままに携帯を取り出して手配をし、声を掛けようとする彼に向かって父は言う。

「娘から少し話は聞いてたが、雰囲気は悪くないし俺より顔も良い……でも、その、チャラチャラしたのどうにかしてくれ」
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