トワイライト(下)

「済みません……気をつけます」


まるで自分の子供でも叱るような言い方をする父に彼は何時もの顔を浮かべていた。


「もう止めて、お父さんが思ってる以上に素敵な人だから大丈夫……」


チャイムが鳴っても足の進まない父の腕を強引に引き、玄関先で無理矢理に靴を履かせるように背中を押し出す。

久しぶりに田舎から出て来た親を前に口は止まらずに皮肉を吐き出す。


「連絡も無しに何しに来たの?飛行機代だって高いのに……」

「何度も電話したのに出なかっただろ、そんな怒ると皺が出来るぞ……それから、今度父さん再婚するんだ、その人と旅行ついでに寄っただけだ」


その言葉に残された着信履歴を思い出し、父の再婚話にも触れられずに黙り込んで背中を眺めていた。

小さい頃に良く背負って貰った広い肩幅は小さくなり、振り向いた顔は焼けた浅黒い肌に皺が目立ち、相変わらずの強面な中で優しく此方を見つめる父に告げる。


「今度、二人で帰るから……今日はありがとう、遠い所来てくれたのにごめんね、お父さん……」


父の姿を見て自然に言葉は溢れ、涙が頬に伝って落ちていた。

そんな自分を父は鼻で笑い、背後で寄り添う彼に向かって言う。


「じゃぁな遼葵、今度会うまでに、そのチャラついたのどうにかしといてくれよ」
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