トワイライト(下)

玄関先で父を見送って踵を返し、リビングに戻ってソファーに座り込む。

同時に大きな溜息を吐いた瞬間、抱き竦められて直ぐに耳元で声が落ちる。


「……マジで……緊張して、死ぬかと思った……」

「……ごめん……遼葵……電話来てたの気付かなくて……ホントにごめん……」


吐き出す息が忙しなく鼓膜に響き、髪の毛を撫でる指先は小刻みに震えていた。

暫く背中を静かに撫でていると、漸く安堵した彼が顔を上げて此方を眺める。


「疲れてるだろうから、先にお風呂入って来て……俺、煙草吸いたいから」

「先に入って来ていいよ、遼葵のほうが疲れてるだろうし……」


その言葉に彼は軽くキスをして言った。


「大丈夫だから、先に行って来て、茅紗の後じゃないと入った気しないし」

明らかに疲れた身体で窓辺に胡坐を掻き、眠そうな目をして煙草を銜えて火を点け、静かに窓を開けてジッポを眺めながら煙草を吹かす。

そんな様子に後ろ髪を引かれつつ着替えを持って浴室に向かい、お湯に浸かりながら一日を振り返って耽る。

慌しさしかなかった中で彼は自分の事ばかりを優先的に考えてくれていた。

ずっと甘えたままで上手く立ち回る事の出来なかった自分の両頬を思い切り抓る。
鏡に映る顔は間延びしただけで可愛いさもない表情だった。
< 35 / 50 >

この作品をシェア

pagetop