トワイライト(下)
浴室を抜け出して彼が入って行くのを眺め、リビングを片付けながら開けたままの窓を閉める。
隙間から覗いた空は夜明けでもないのに街の明るさで少しだけ薄い群青色に染まっていた。
二人で見た三層に重なる彩りを思い描き、カーテンを閉めてドライヤーを取り出す。
髪を乾かしながら木製のテーブルに備わった小さな引き出しを開け、ハンドクリームをテーブルの上に置いて電源を切り、ドライヤーを仕舞った後でクリームを手にベッドの縁に腰を掛ける。
流れ作業を確認して貰うかの如く佇んでいると、上半身裸の彼がシャツを片手に隣に腰を下ろして言った。
「先に寝てていいのに……牛乳温めようか?」
「ううん、大丈夫……手、貸して……」
その言葉に彼は素直に右手を差し出し、此方を眺めて笑みを浮かべる。
「茅紗……さっきの事だけど、俺マジで焦ってたから、何話したのか余り覚えてなくて……反対されたら、ごめん……」
そう告げる彼の顔は何時もの面持ちになり、視線は自分の手を眺めていた。
「気にしてないよ、私も遼葵の時、慌てて挨拶も出来なかったし……」
「うちのお袋は放任主義だから気にしなくてもいいけど……茅紗は一人っ子の女の子だし、俺みたいなのが彼氏なんて、お義父さんは余計に心配だと思う」
目の前で語る言葉の一部が耳に残り、不安げな表情をする彼に胸が締め付けられる。