トワイライト(下)
「明後日の金曜は二十一時頃に予約したわ、余り遅くならないようにするけど、彼氏に言って置いて頂戴ね」
翌日は彼女の話し声も遠くに聞こえ、ぼんやりしながら受付で同じクリップボードを拭いていた。
「ちょっと、あんた人の話聞いてるの?!」
怪訝な声を上げる彼女の顔に目線を投げ、やけに今日は艶めかしい唇だと眺める。
淡く紅を引いたような血色の良い口元、肌理細やかな顔と綺麗に整えられた眉毛、長くて濃い睫を瞬かせながら呆れた表情が浮かんでくる。
「ごめん……金曜の午後九時、ちゃんと聞いてる……」
ここ数日の慌しかった疲れが瞼に圧し掛かり、まだ出勤して間もないのに早く帰って寝ることばかりを考えていた。
「そんな眠そうな顔されたら仕事にならないわ、外の空気でも吸って目を覚まして頂戴」
そう言って彼女は自分の手にクロスを持たせ、背中を思い切り叩いて店先へと促す。
「済みません、店長……綺麗にしたら直ぐ戻ります」
その言葉を鼻で遇い、彼女は受付に立って佇む。
それは前より更に女性らしく綺麗に見え、そんな姿を店の窓を拭きながら眺めていた。