トワイライト(下)
「毎日掃除ばかりして、良く飽きないね」
不意に背後から流れるように聞こえた言葉に振り向くと、続けざまに横の方から声が聞こえてくる。
「帰るとき店寄って、そろそろ髪の毛も切らないとだし、話もあるから」
その言葉に頷く前に彼は早々に店舗へと入り、受付を確認した後で此方に向けて軽く手を上げた。
同じように返すと少しだけ口角を上げ、椅子で待つ客の元へと足を運んで行く。
鏡越しに客を眺める彼の装いは春を感じさせ、柔らかそうな生成りのシャツと白の綿パンが良く似合っていた。
真剣な眼差しと道具を持つ指先を遠目に捉え、ふと店へ進む足に自分の心が何で動くのかに気付く。
それは弛んだ顔の頬を叩き、重い瞼を叱って可愛げの無い表情に勇気を与えてくれた。
「お疲れ様、丁度五分よ、その調子で頑張って頂戴」
「はい、店長、喜んで」
「此処は居酒屋だったかしら?あんたは可愛いから直ぐ雇ってあげるわ」
ふざける自分に彼女は笑って応え、此方に向かってクロスを投げて言う。
「部屋の掃除とお勧めメニューのポップ剥がして頂戴、それから休憩にして良いわ」