トワイライト(下)
各部屋の見回りをしてビルの中の喫茶店で一時の休憩をし、眠い身体に珈琲を飲み込んで席を立つ。
入り口の前で彼と鉢合わせをして笑みを交わし、横を通り過ぎる間際に片手が伝票を盗んで行く。
まるで秘密の伝言を忍ばせるような仕草、席に着いた彼は煙草を口にして澄ました顔をしていた。
それからの午後は学生らが多く押し寄せ、騒々しく忙しない時間が息を吐く隙間にも通り過ぎて行く。
部屋中を何度も駆け巡り、漸く椅子に座れた時には足が浮腫んでいた。
大きな溜息と共に更衣室で着替えを済ませ、抜け出した自分を待ってたかのように紙袋が押し付けられる。
「な、に?」
「私からあんたによ、バレンタインに渡すの忘れてたから、受け取って頂戴」
手にした紙袋の隙間から見える生成りに可愛いレースの付いた襟元、大きく印されたブランド品のロゴを目にして躊躇う。
「……こんな高そうなの、悪いよ……」
「良いのよ、あんたに似合うと思って買ったんだから、気にしないで頂戴」
その言葉に飛んでいた事を思い出し、罰の悪さを抱えて返した。
「ありがと……ちゃんとお返しするから待ってて」
「遅刻常習犯に言われても説得力が無いわよ、さっさと帰って肌のケアでもしなさい」