トワイライト(下)
約束の金曜を前にした木曜の正午前、大きなバッグを肩に下げた彼が店先の前を通り過ぎて行く。
その顔は此方にも痛いほど伝わる緊張した表情を浮かべていた。
「見るからに重そうな荷物抱えて、何処にお出かけするのかしら」
「コンテストで京都、休憩行って来ていい?」
「あら、お見送りもまだなの?さっさと行ってらっしゃい」
「行って、来ます」
彼女が自分の尻を一つ叩いて嗾けたけれど、店先を出ると彼の姿は何処にも無く、今朝の会話を思い浮かべながら喫茶店へと向かう。
『金曜の夜には帰るから、先に寝ててもいいし、好きに過ごしてて』
触れるだけのキスの名残を撫でて耽り、足の方向を変えて専門店へと進んで行く。
人混みを抜けながら携帯を取り出して文章を打ち込み、悩んで考えてる間に足が専門店の前で立ち止まる。
見るからに自分からは縁遠い概観と佇まい、白と黒を基調にした看板の文字に透き通るように磨かれた正面入り口、重鎮ささえ感じるドアを開けて足を運ぶ。
店内は眩暈を覚えるほど煌びやかな世界が広がり、物越しの柔らかそうな店員すら輝いて見える。
目当ての物を探して周り、結局見つからずに店員を訊ねて購入し、逃げるようにして店を後にした。