トワイライト(下)

週末の金曜は開店から忙しく過ぎ去り、彼女と共に少しだけ残業をして終えた。
そのまま二人で予約した店に向かい、個室に入って席に着いた途端に彼女は告げる。

「あんたにね、話して置きたいことがあるの」

いつに無く真面目な眼差しで此方を眺め、バッグから煙草を取り出してテーブルの上に静かに置く。

「彼氏のこと?」

その言葉に一つ首を振って彼女は言った。

「来週からタイへ行くの、本当の姿になるために」

思い切り固唾を飲んだ自分を眺め、見つめ合う中で彼女は綴る。

「"彼"と知り合って気持ちが強くなってね、前々から考えては居たけど、でも決心が付かなかった……それで、あんたの背中押してるうちに私も勇気を貰った気がしたのよ」

「急すぎるよ……仕事はどうするの?」

そう口にした声は震えていた。

「戻るのは一ヵ月後くらいになるけど、休みは貰ってるから心配しなくても帰ってくるわよ」

彼女は軽やかに笑って煙草を口にし、場を和ますように煙りを吹かす。

「あ……そうだ、お園に合うと思うから、これ良かったら使って」

「やだ、そんな気遣わなくて良いのに、私の目は厳しいわ、よ……」

細い指が止まった瞬間に僅かに震えて見え、誤魔化すように煙草を口にして彼女は言った。

「あんた良く私のこと見てるわね……ホントに可愛くて、離れるのが惜しいわ……」
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