トワイライト(下)

沸々と意識が起き上がるよりも先に反応した身体が目を覚まし、突き刺すような痛みを堪えながら浴室に向かう。

熱めのシャワーを浴びて歯を磨く間に漸く意識が戻り、浴室を抜けて目にしたリビングの光景に立ち止まる。

テーブルの上に置かれた灰皿の吸殻、僅かに珈琲が残ったカップ、ソファーの背もたれに掛かった冬物のジャケット。

携帯を見なくとも時刻が分かる窓辺から洩れた明るさ、静かにカーテンを開けて見えた空は朝焼けが広がっていた。

少し薄くなった三層の彩りに昨夜の罪悪感を抱え込む。

微かに聞こえる寝息と僅かに上下する布団、眠ってる時ですら隣を気にして布団を掛け直す手が愛しく見える。

その手や指先に自分の心は何度も動かされ、何時でも背中を押されていた事に気付く。

二人で見た朝焼けの鮮やかさとは違う目の前の色を呆然と眺めていた。

次第に白々とした空が広がり、ゆっくりと眩しい太陽が顔を覗き出す。

『あの時は』などと感傷に耽る自分を叱るような光りに腰を上げ、キッチンに向かって朝食の用意を始める。

手を洗う時の水道の蛇口に、冷蔵庫の中身を眺めてる時に、どの瞬間にも愛しい姿が目に浮かんでいた。

漸く寝室から顔を覗かせた彼が眠そうな目をし、此方を眺めて声を掛けて来る。

「おはよう……腹減ったから、早く何か食べさせて……」

「おはよう、昨日はごめんね、反省してる……」

自分の言葉に軽く頷き、流れるように背後に立って腕を回して囁いた。

「あんなに呑んで良く起きれるね、そろそろ自覚して、俺も怒りたくないから、マジで」
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