トワイライト(下)
「いい加減にして、マジで……」
まるで夢の中を思わせるような言葉に身体を一歩引き、悪いとは感じながらも聞き耳を立てて佇む。
「じゃぁ、一回だけデートして、それで終わりにする」
軽々しい口振りに大きな溜息が混じり、重い空気が漂い始めていく。
何度も吐き出される呼吸は明らかに居心地が悪そうに聞こえ、その場を見なくても分かるほど険悪な雰囲気を醸し出していた。
「断る、もう諦めて、何度言われても気持ちは変わらないから」
「一回だけ、一時間とかで良いから、お願い」
「一回も一時間も無いし……彼女が居るし、無理だから諦めて」
「そんなの内緒にしとけば良いよ、絶対誰にも言わないって約束する、一回だけでいいから、お願い」
一歩も引かない女性の言葉に彼は息を押し殺し、肌を突き刺すような冷たい風が吹き抜けて行く。
駐車場から抜けてきた恋人達が好奇な目を向けて横を通り、居た堪れずに身を縮めながら尚も耳を傾ける。
信じる気持ちを何処かで重ね合わせたかった。
再び大きな溜息が零れ落ちるのが聞こえ、やたらと冷静で低い声が流れてくる。
「この際だから言わせて貰うけど、今度来たら出るとこ出るから、本当にもう止めて」