トワイライト(下)

近付く気配に立ち去ろうとするも呆気なく目が合い、互いに罰の悪い顔をして視線を当ても無く行き来させていた。

けれど、ドラマや物語のようには上手く進まず、彼の背後を歩きながら睨む人に小さな不安が過ぎって行く。

そのまま黙り込んで俯いた視線に捉えた手が躊躇い気味に此方へ伸ばそうとしている。

隙間風や人が通る度に冷たさが吹き抜ける場所、どのくらい居たのか一目瞭然の右手は小刻みに震えていた。

それを目にして手を取って包み込み、忘れ掛けていた事を思い出す。

自分など比べ物にもならない彼が抱える不安の大きさに気付いた時、不恰好ながらも此方に笑みを投げ掛ける顔に思わず唇を嚙んだ。


「ごめん……こんな寒い場所で待たせて……」


そう言って彼は少しだけ温もりを戻した指で自分の手の甲を撫でる。

「……私の方こそ、ごめん……盗み聞きしてた……」

此方を気に掛ける言葉に胸が痛み、ありのままを吐き出して苦笑いで取り繕った。

静かに彼は首を振って見せ、ふと笑った後で指を編みながら優しく語る。

「腹減りすぎて倒れそうだから……早めに夕飯食べさせて」


相変わらずの顔して絡んだ手を少しだけ掴みながら返した。


「うん……たまには遼葵の好きな物、食べに行こ?」
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