トワイライト(下)

たった一言『分かってるよ』と口にすれば良いだけなのに何故か出て来ない。

この時、初めて信じる気持ちと想う強さが別だった事を知った。

無論、彼の事を疑っているでも責めてる訳でも無く、ましてや試している訳でも無い。

ただ詰まらない嫉妬をして彼の一言で舞い上がる自分が馬鹿みたいに見えた。


「違うの……嬉しくて……」


漸く口にした言葉に彼は苦笑いを浮かべて頬を拭いながら言う。


「俺は茅紗以外に興味無いから、もう泣かないで……」


かさついた指が触れる度に恋しく思い、それほど自分は好きなのだと実感する。

そして結局、食事に行くような雰囲気にもならず、家に帰ると冷蔵庫の余り物で彼がパスタを作ってくれた。

相変わらずTVもオーディオ機器もない質素なリビングで食事を進め、先に終えた彼がベランダ越しに座り込んで煙草を口に銜える。

静かに窓を開けた後で火を点け、携帯を手にしながら話し掛けて来た。


「俺のトレーナー着てるけど、慌てて迎えに来たの?」


「ごめん、急に呼び出されて職場に行ったから……」
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