異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 施設には、高校を卒業するまでしか置いてもらえない。パティシエになるには高校卒業後に製菓の専門学校に進学する必要がある。
 卒業したらすぐに施設を出て、働きながらひとり暮らしをしなければいけない自分には、絶対に叶えられない夢だったのだ。

 最初は私のお菓子作りを歓迎してくれていた先生たちが、成長するにつれ微妙な表情を見せるようになったのは、この事実をいつ告げようか迷っていたからなのだろう。結局、人から教えられる前に自分で気付いてしまったけれど。

 寮付きの地元企業に就職することに決め、しんみりする先生たちの前ではわざと明るく振る舞い、私は高校と施設を卒業した。

 悲しくなかったと言ったら嘘だし、みんなが自由に進路を選ぶ中『どうして私だけ……』と思わなかった、なんて言えない。だけど、今まで育ててもらった施設の先生たちのことを思うと、自分が不幸だなんてことだけは思っちゃいけないと思った。

 それに、お菓子作りが趣味な事務員だって、なかなかいいと思う。これからはお給料をもらえるし、もっといろんなスイーツが作れるようになるだろうし。

 それを楽しみに就職したけれど、お給料は生活するのにギリギリで、贅沢をする余裕はなかった。けれど、浮かせた食費でたまに買う、有名な洋菓子店のケーキや、仕事をがんばった日に自分へのごほうびで買うコンビニスイーツだってうれしくて、自分でお金を稼ぐ楽しさを知った。

 相変わらずの節約レシピだけど、レパートリーもだいぶ増えた。

 そんな日々に満足しながら五年が経ち、私は二十三歳になった。
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