異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 スコーンとりんごのジャム、ナッツを入れたクッキーと、レモンクッキー。ひとくちサイズのマドレーヌ、洋梨のプチタルト。正式なアフタヌーンティーだとサンドイッチやキッシュなどの軽食も入るらしいが、そこはフルーツサンドで補った。果物を使いたい、と申し出たら、ベイルさんが王宮の厨房からわけてくれたのだ。

 質のいいバターや小麦粉もいただけたので、今回の焼き菓子はかなり贅沢だ。作っている最中にいくつかつまみ食いをしてしまったのは、味見だから許されるだろう。たぶん。

 スタンドに焼き菓子を盛り付けていると、騎士の人たちが集まってきた。私のことを気にしながら、居心地悪そうに椅子に納まっている。

 このファンシーな空間に騎士さんたちは似合わないけれど、ロイヤルブルーのフロックコートにクラヴァット姿のアルトさんはぴたりとはまっている。まるで、前世で見た外国映画のワンシーンみたい。精悍さやセクシーさに気を取られてしまうけれど、王族らしい気品も持ち合わせているんだなあと実感する。

「これはなんだ……?」
「見たことのない食べものだぞ」

 騎士さんたちは、焼き菓子を見てざわついている。給仕が終わったところで、ベイルさんがぱんぱん、と手を叩いて注目を集めた。

「みんな、聞いてくれ。テーブルの上にあるのは『スイーツ』というもので、砂糖を使った甘い食べものだ。ここにいる彼女は我が国唯一の『パティシエ』という凄腕の料理人だが、無理を言って今日のために作ってもらった」

 こんな少女が……?という驚きの目で私を見る騎士さんたち。

「わ、私がいつ国で唯一のパティシエになったんですか。そんな大層なものじゃ……」
「いまのところ、砂糖を扱える料理人はお前しかいない。嘘は言っていないだろ」

 アルトさんにこそっとささやくと、怪訝な顔でそう言われた。
 そうか、今の私は他の人から見たらパティシエなのか。

 前世でずっと、夢だった職業。それを自分が異世界で名乗れるなんて、思ってもみなかった。うれしさと興奮で、体温が上がっていく気がする。

「アルファート殿下が、日頃の慰労のために用意してくださったんだ。失礼のないようにいただけよ」

 そう言って食べ始めるように促すが、騎士さんたちは固まったまま動かない。もしかして、どう食べたらいいかわからないのだろうか。

「あのう、スコーンはこういうふうにふたつに割って、クリームかジャムをお好みでつけてください」
「手でつまんでいいのか……?」
「はい、もちろんです。フォークやナイフを使わなくていいものを用意しましたから」

 そう告げると、みんなホッとしたように各々スイーツを取り始めた。様子を見守っていたアルトさんとベイルさんも、空いていたテーブルにつく。
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