異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「……あ、そうだった。ちょっと待ってね。今日も、おやつがあるの」

 ポケットの中からクッキーを取り出し、小さく割って手のひらに乗せた。バターも砂糖も使っていない、くるみ入りクッキーだ。少量の牛乳でほんのり甘さを出し、生地をまとめるのにオリーブオイルを使っている。

 最初はナッツをあげていたのだけど、あまりにも頻繁にやって来るようになったので特製クッキーを作ってみたのだ。
 評判は上々で、ナッツのときよりも食べっぷりがいい。

「ほんとにかわいいなあ。ねえ、そんなにクッキーが気に入ってくれたなら、うちの子にならない?」

 私の手のひらの上でクッキーを食べているリスに声をかける。ちっちゃくてひんやりした肉球と、手に伝わる重みが愛しい。

 前世ではペットを飼ったことがなかったので、憧れていたのだ。特にリスなんて、動物園でしか見たことがなかったから、見つけた当初は感激してしまった。

 期待を込めてくりくりの瞳を見つめていたのだけど、リスはクッキーを食べ終えると、お礼するように私の肩にのぼった。

「わわっ」

 と私が肩をこわばらせた瞬間飛び降りて、そのままどこかに行ってしまった。

「あーあ。やっぱりダメかぁ……」

 言葉が通じるとは思っていないけど、少しがっかりしてしまう。
 あんなに人懐っこいし、もしかしたらどこかの家で飼っているシマリスがちょこっと家を抜け出してきているのかも。

「エリーちゃん、来たよ」
「ベイルさん。いつもありがとうございます」

 午後になると、いつものようにベイルさんがやってきた。売り場に出ていた私に、気さくな様子で片手をあげる。私は、商品を陳列する手を止めてベイルさんに駆け寄った。

「ちょうどお客さまが途切れたところで、売り子さんにも今日は早めに退勤してもらったんです。ベイルさんもよかったら座ってお茶してってください」
「いいのかい? 一応、用心棒として雇われているのに」
「用心棒だったら余計、中にいてもらったほうがいいじゃないですか。それにずっとお礼をしたかったんです。今まで忙しくてなにも出せなかったから……」
「そっか。それならありがたく御馳走になるよ」

 急いでお茶を淹れて、ふわふわのシフォンケーキをお皿に乗せる。たっぷりの生クリームと、ミントの葉も添えて。
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