異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「はい! 私、昔からもふもふした動物さんが好きで……。あっ、こんなこと言ったら失礼ですよね。ごめんなさい……」

 ペット扱いしてしまったことを申し訳なく思い、うつむいたのだが、狼獣人さんは目を細めてしっぽを振っていた。

「おねえちゃん、ガルフに気に入られたみたいだね~!」
「気に……?」

 これは喜んでいるのか。そういえば狼はイヌ科だっけ。
 ぐるる、と軽くうなってリスくんを見たあと、狼さんは自己紹介してくれた。

「俺は狼獣人のガルフ、こっちはリス獣人のナッツだ。さっきは、怖がらせてすまなかった。獣人を見ただけで石を投げつけてきたり、追いまわしてくる人間もいるから……」
「まだまだ、頭の古い研究者も多いからな。国を率いる者がそれではいけないと常々口を出しているのだが」

 ガルフさんが、不審な目でアルトさんを見ている。『やけに偉そうな物言いのこいつは何だ』と顔に書いてある。王子とバレたらまずいから、話を逸らさないと。

「ガルフさんとナッツくんだね。私はこのお店の店主のエリーで、こちらはスポンサーのアルトさん。店頭にいた赤毛の人は、用心棒のベイルさんだよ」
「スポンサーか……。まあ、間違ってはいないが」

 アルトさんは少し不満そうにこぼした。ほかにどう説明したらよかったのだろうか。

「ナッツくんは、いつも食べているクッキーを買いに来てくれたの? やっぱり、あれだけの量じゃ足りなかったかな」
「ううん、そんなことないよ! 実はね……」

 ここに来たいきさつを、ナッツくんは話してくれた。

 ナッツくんはもともと人間が好きで、リスの姿でしょっちゅう城下町に遊びに来ていた。そんなとき、『スイーツ』というものを売っているお店があると耳にする。人間の食文化にも興味あるナッツくん、『これは調査しなければ』と意気揚々とお店の前まで来たそうだ。

「そしたら、お姉ちゃんに見つかって。追い払われるかなと思ったら食べものをくれたからびっくりしたよ。貴族街って、リスを嫌う人も多いからさ。ドレスの裾を噛まれると思っているみたい。失礼しちゃうよね」

 私の作ったリス用クッキーを気に入ってくれたナッツくん。森に帰ってから、仲良しのガルフさんにそのことを話した。

「ガルフは、狼なのに菜食主義で、群れから離れて暮らしてるんだ。木の実やきのこが好きだから、ここのクッキーだったら食べられると思ってさ」
「お肉は、まったく食べないんですか?」
「うさぎ獣人と知り合いなのに、ただのうさぎを食べられるのか? どうしても、頭をよぎってしまうだろう」

 なんて繊細で、心の優しい狼さんなのだろう。このセリフを聞いたら、獣人に対する誤解なんて一発で解けそうなのに。

「ガルフは見た目によらずこんな性格だから、僕も友達でいられるんだよね。リスってさ、獣人もただのリスも見分けがつかないでしょ? 間違って食べられないか心配しなくてすむんだもん。それに、ガルフの側にいれば安心だしね」

 ナッツくんは笑い話のように語っているけれど、それはけっこうハードな環境なのでは……。ガルフさんは、友達兼ボディガードのようなものなのか。
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