異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「獣人同士では争わないが、肉食獣人が動物を狩るのは仕方ないことだからな……。俺は、異端なんだ」
「人間の食べものは僕たちにとって毒なものが多いし、かといって、身体の大きなガルフが木の実やきのこだけで生きていくのも難しくてさ。このお店のスイーツが食べられたら、ガルフの食生活の心配がなくなるなと思って連れてきたんだ」

 なるほど……。ガルフさんの身体は毛に覆われているとはいえ、細身なのがわかる。食事をお腹いっぱいは摂れていないのだろう。

「それでしたら……、クッキー以外にも、ガルフさんが食べられそうなスイーツをいくつか作らせてもらえませんか?」
「できるのか?」
「はい。獣人さんが食べちゃいけないものは、なんとなくわかるので」

 前世でペットを飼ったことはないけれど、玉ねぎやチョコレートがダメだとか、牛乳はお腹を壊すとか、本で読んだことがある。施設に動物好きの子がいたためだ。
 もとの世界の動物と変わらないなら、獣人さんにもこの知識が使えそうだ。

「ただ、人間の使う通貨はあまり持っていないんだ」
「そこは物々交換でもいいんじゃないか? 森にしかない珍しい木の実があれば、エリーが材料にできるだろ」

 と、アルトさんがアドバイスしてくれた。

「そうですね! 木の実のタルトも作れますし、キャラメリゼして固めてもおいしそう……」
「よし。これで交渉成立だな」

 私たちは、たくましい狼の手と、小さなリスの手と、人間の手で握手を交わした。

 ガルフさんとナッツくんは、また人型に戻って帰っていった。次に来るのは一週間後の約束だ。それまでに、ガルフさんとナッツくんを喜ばせられるスイーツを作らなきゃ。
 ガルフさんとナッツくんを裏口から見送って店内に戻ると、エプロン姿のベイルさんが愛想をふりまいていた。

「お兄さんのオススメは何ですの?」
「こちらの、ぶどうのタルトはどうでしょう。飴のかかったぶどうが宝石のようで美しいですよ。ご婦人にぴったりじゃないですか」
「まあ、お上手ね! じゃあそれを出ているだけ全部いただこうかしら」
「ありがとうございます」

 いつの間にか店内にできていた行列を、私とアルトさんがぽかんとしている間に次から次へと捌いていく。

「……あいつにこんな才能があったとはな。用心棒より売り子のほうが向いているんじゃないか」

 笑いをこらえながら、アルトさんがつぶやいた。

「ほんとですね……」

 ご婦人方の目がハートになっている。爽やかなイケメン騎士の笑顔は、フリルエプロンの違和感を差し引いても余りあるくらい、客寄せに効果的なようだ。

「面白いからしばらく見ていよう」

 その後、やっと私たちに気付いたベイルさんが、顔を真っ赤にしながら怒ったのは言うまでもない。
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