異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 その日から、私の獣人さん専用スイーツの研究が始まった。甘みは欲しいと言っていたから、ふたりとも食べられると言っていた蜂蜜を少し使ってみたり、果物を多めに使うことで甘みを補ってみたり。

「やっぱり、せっかくスイーツなんだから甘くないとね」

 甘すぎると獣人さんの身体に悪いので、調整が難しい。そのほか、サツマイモやカボチャも使ってみることにした。バターや生クリームも一度にたくさん食べなければ大丈夫ということで、普通に使えるのがありがたい。味覚や胃腸の作りが、ちょうど獣と人間の中間くらいなのかも。

 毎日、お店に並べる商品を作りながらの研究は大変だったけれど、夜なべするのも苦ではなかった。顔の見えないたくさんの人のためにスイーツを作るのも好きなお仕事だけど、『誰かのためにスイーツを作る』のは私の原点で原動力なんだ、と実感した。

 その人が喜んでくれる姿を思い浮かべて、その人のために作るスイーツ。
 毎晩、粉をふるいながら、初めての『オーダースイーツ』に心がワクワクしているのを感じた。

 一週間後、ガルフさんとナッツくんは閉店後にやってきた。日もとっぷり暮れてコートがないと外に出られない寒さだが、ふたりは薄手のマントでも平気そうな顔をしている。獣人さんは寒さに強いらしい。

「いらっしゃいませ。ガルフさん、ナッツくん」

 アルトさんとベイルさんも、結果を見届けに来てくれている。

「そちらに座ってください。試食をしてほしいので、お茶を用意しますね。カモミールティーだったら飲めますか?」

 ふたりを店頭のイートインスペースに案内し、マントを預かる。閉店後なので、獣耳としっぽが見えても大丈夫だろう。

「ああ」
「大丈夫だよ!」

 お茶を淹れ、用意しておいた数種類のスイーツをふたりぶんずつトレイに載せる。

「お待たせしました」

 テーブルの上でお披露目すると、ガルフさんは目を見開き、ナッツくんは「わあ!」と歓声をあげた。

「こちらから、サツマイモのマフィン、モンブラン、くるみのクッキーです。どれも、甘みは蜂蜜で控えめにつけてあります。こっちの、まるごとりんごのアップルパイとカボチャのタルトは、りんごとカボチャをちょっとのお砂糖で煮てみました。なるべく自然の甘さを活かすように作ってみたのですが、どうでしょうか」

 スイーツを目の前にして、ガルフさんは固まっていた。耳としっぽがぴんと立っているので、驚いているようだ。

「ガルフ、食べなよ」
「あ、ああ……」

 ナッツくんに促され、ためらいがちにマフィンに手を伸ばす。ひとくち食べて、

「……うまい」

 そう噛みしめるようにつぶやいた。
 ナッツくんもあとに続いて、夢中でマフィンにかぶりついている。
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