異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「王宮騎士の紋章も、竜騎士の二つ名も知らないとは、あの男も運が悪い」
「えっ……」
ベイルさんが、柄に手をかける。剣を抜き出した途端、それは私の背丈ほどもある大剣に変わった。
「ええっ……!?」
どう見ても、鞘と大きさが合っていない。
「ベイルの剣には、鞘から抜いたときに大きさが変わるように俺が魔法をかけている。あの男と従者を見てみろ。あの剣を見ただけで腰を抜かしてるぞ」
飛びかかる気まんまんだった従者が「あわわ」と言いながらその場で立ち尽くし、成金は四つん這いの格好で逃げ出そうとしている。
ベイルさんは、成金に向かって大剣をぶんと振った。
「きゃっ……」
血みどろの惨劇を予想して、反射的に目を閉じる。
「大丈夫だ。見てみろ」
アルトさんが優しく肩を叩く。おそるおそる目を開けてみると、剣は成金の鼻先ギリギリをかすめて、舗道に突き刺さっていた。
「ひ、ひ、ひぃぃ……」
「金持ちだろうが、貴族だろうが、この城下町で悪事を働く者は王宮騎士団が許さん」
「き、騎士団……?」
成金の怯えきった顔が、さらに青くなった。
「この紋章を覚えておけ。今日のところは見逃してやるが、また繰り返すようなら……わかるな?」
ベイルさんが顔を近付けてささやくと、成金の喉が「ひゅっ」と音を立てた。
すごみのある表情も、低くて温度の感じない声も、いつものベイルさんと思えない。これが、ベイルさんが『竜騎士』と恐れられる所以――。
私がぼうっとしている間に、成金たちは馬車で逃げて、アルトさんは私の腕を離していた。
「お嬢さん。ご無事ですか」
私と同じように、ぽかんとした顔で棒立ちしていたミレイさんに、ベイルさんが声をかける。その瞬間、ミレイさんの顔がぼっと赤くなった。
「……あっ、は、はい! 助けてくださって、ありがとうございました!」
「用心棒だというのに大事なときに留守にしていて、怖い思いをさせてすみませんでした」
「い、いえ……」
騎士団流のお辞儀をするベイルさんを、ミレイさんはぽーっとした眼差しで見つめている。
「エリーちゃんも、ごめんね」
「いえ、間に合って助けてくださったんですから、じゅうぶんです」
申し訳なさそうに詫びるベイルさんに、私はあわてて頭を横に振った。
「一件落着だな。……で、さっきから気になってたんだが、お前、それ、どうしたんだ?」
「あ」
アルトさんがいぶかしげな表情で私の両手を凝視して、私はフライパンと麺棒を持っていたことをやっと思い出したのだった。
「えっ……」
ベイルさんが、柄に手をかける。剣を抜き出した途端、それは私の背丈ほどもある大剣に変わった。
「ええっ……!?」
どう見ても、鞘と大きさが合っていない。
「ベイルの剣には、鞘から抜いたときに大きさが変わるように俺が魔法をかけている。あの男と従者を見てみろ。あの剣を見ただけで腰を抜かしてるぞ」
飛びかかる気まんまんだった従者が「あわわ」と言いながらその場で立ち尽くし、成金は四つん這いの格好で逃げ出そうとしている。
ベイルさんは、成金に向かって大剣をぶんと振った。
「きゃっ……」
血みどろの惨劇を予想して、反射的に目を閉じる。
「大丈夫だ。見てみろ」
アルトさんが優しく肩を叩く。おそるおそる目を開けてみると、剣は成金の鼻先ギリギリをかすめて、舗道に突き刺さっていた。
「ひ、ひ、ひぃぃ……」
「金持ちだろうが、貴族だろうが、この城下町で悪事を働く者は王宮騎士団が許さん」
「き、騎士団……?」
成金の怯えきった顔が、さらに青くなった。
「この紋章を覚えておけ。今日のところは見逃してやるが、また繰り返すようなら……わかるな?」
ベイルさんが顔を近付けてささやくと、成金の喉が「ひゅっ」と音を立てた。
すごみのある表情も、低くて温度の感じない声も、いつものベイルさんと思えない。これが、ベイルさんが『竜騎士』と恐れられる所以――。
私がぼうっとしている間に、成金たちは馬車で逃げて、アルトさんは私の腕を離していた。
「お嬢さん。ご無事ですか」
私と同じように、ぽかんとした顔で棒立ちしていたミレイさんに、ベイルさんが声をかける。その瞬間、ミレイさんの顔がぼっと赤くなった。
「……あっ、は、はい! 助けてくださって、ありがとうございました!」
「用心棒だというのに大事なときに留守にしていて、怖い思いをさせてすみませんでした」
「い、いえ……」
騎士団流のお辞儀をするベイルさんを、ミレイさんはぽーっとした眼差しで見つめている。
「エリーちゃんも、ごめんね」
「いえ、間に合って助けてくださったんですから、じゅうぶんです」
申し訳なさそうに詫びるベイルさんに、私はあわてて頭を横に振った。
「一件落着だな。……で、さっきから気になってたんだが、お前、それ、どうしたんだ?」
「あ」
アルトさんがいぶかしげな表情で私の両手を凝視して、私はフライパンと麺棒を持っていたことをやっと思い出したのだった。