異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
そう心の中で叫んでみたものの、生クリームなんて手に入らないし、果物だって庶民には高級品だ。
どうしたものか……と逡巡したとき、玄関の扉が開いた。
「あら、エリー。今からお昼ご飯の支度を始めるところだったの?」
食糧でいっぱいの大きな籠を軽々と持っているのは、市場から帰ってきたお母さん。その足元に、一緒についていった幼い双子の弟妹がまとわりついている。
「お母さん、お帰りなさい。う、うん。何を作ろうかなって考えてたの」
お隣さんから分けてもらった砂糖をそのまま舐めていました――なんて言えないから、あわててごまかす。
お母さんは腰巻エプロンを揺らしながら、ダイニングテーブルの上に買い物籠をよいしょと載せる。
ちらりと籠に目をやると、赤くて丸い、つやつやした物体が目に入った。
「お、お母さん、これ……!」
テーブルに駆け寄り、籠を勢いよく覗き込むと、母が驚いた声を出した。
「な、なぁに、急に。市場で傷物が安く売りに出されていたから、たくさん買ったのよ。エリーも好きでしょう? りんご」
傷はついているけれど大きくて立派なりんごがいくつも入っている。
これがあれば、『あれ』が作れる……!
ずっしりしたりんごを手にしたとたん、アイディアと喜びがお腹の底からこみあげてきた。
「お母さん! このりんご、いくつかお昼ごはんに使っていいかな? あと、砂糖も」
「いいけど、砂糖なんてお母さんも使ったことないわよ。エリーに作れるものなんてあるの?」
「うん。レシピを本で読んだことがあるから」
もともと作ろうとしていた本日のランチメニューは、甘くないパンケーキと焼いたソーセージ、豆のスープだ。このメニューをちょっとアレンジするだけで、前世でよく作っていたおいしいスイーツになる。
「それなら、エリーに任せてみようかしら」
「おねえちゃん、なに作るの? なに作るの?」
六歳になるマリーとコージーが、私のエプロンの裾をぐいぐい引っ張る。好奇心旺盛な双子は、目をきらきらと輝かせている。
「んー、まだひみつ! 楽しみにしてて」
「え~!」
声をそろえて頬をふくらませたふたりがかわいくて、思わず笑みがこぼれる。
「ほらほら、お姉ちゃんの邪魔しないの。キッチンは包丁や火を使うから危ないっていつも言ってるでしょ」
めっ、とこわい顔を作りながらも、愛情と心配がにじみ出ているお母さん。その光景を見ていたら、なんだか無性に泣きそうになった。
「……お母さん」
そっと、エプロンをつけた胸元に顔を寄せる。
「あらあら。急にどうしたんだい?」
お母さんは不思議がりながらも、抱き締めて頭を撫でてくれた。
「ひとりでいる間に、なにかあった?」
「ううん。ただ急に、家族っていいなって思ったの」
前世では、あれだけ欲しかった自分だけの『家族』。今の人生では、それが最初から存在しているんだ。
どうしたものか……と逡巡したとき、玄関の扉が開いた。
「あら、エリー。今からお昼ご飯の支度を始めるところだったの?」
食糧でいっぱいの大きな籠を軽々と持っているのは、市場から帰ってきたお母さん。その足元に、一緒についていった幼い双子の弟妹がまとわりついている。
「お母さん、お帰りなさい。う、うん。何を作ろうかなって考えてたの」
お隣さんから分けてもらった砂糖をそのまま舐めていました――なんて言えないから、あわててごまかす。
お母さんは腰巻エプロンを揺らしながら、ダイニングテーブルの上に買い物籠をよいしょと載せる。
ちらりと籠に目をやると、赤くて丸い、つやつやした物体が目に入った。
「お、お母さん、これ……!」
テーブルに駆け寄り、籠を勢いよく覗き込むと、母が驚いた声を出した。
「な、なぁに、急に。市場で傷物が安く売りに出されていたから、たくさん買ったのよ。エリーも好きでしょう? りんご」
傷はついているけれど大きくて立派なりんごがいくつも入っている。
これがあれば、『あれ』が作れる……!
ずっしりしたりんごを手にしたとたん、アイディアと喜びがお腹の底からこみあげてきた。
「お母さん! このりんご、いくつかお昼ごはんに使っていいかな? あと、砂糖も」
「いいけど、砂糖なんてお母さんも使ったことないわよ。エリーに作れるものなんてあるの?」
「うん。レシピを本で読んだことがあるから」
もともと作ろうとしていた本日のランチメニューは、甘くないパンケーキと焼いたソーセージ、豆のスープだ。このメニューをちょっとアレンジするだけで、前世でよく作っていたおいしいスイーツになる。
「それなら、エリーに任せてみようかしら」
「おねえちゃん、なに作るの? なに作るの?」
六歳になるマリーとコージーが、私のエプロンの裾をぐいぐい引っ張る。好奇心旺盛な双子は、目をきらきらと輝かせている。
「んー、まだひみつ! 楽しみにしてて」
「え~!」
声をそろえて頬をふくらませたふたりがかわいくて、思わず笑みがこぼれる。
「ほらほら、お姉ちゃんの邪魔しないの。キッチンは包丁や火を使うから危ないっていつも言ってるでしょ」
めっ、とこわい顔を作りながらも、愛情と心配がにじみ出ているお母さん。その光景を見ていたら、なんだか無性に泣きそうになった。
「……お母さん」
そっと、エプロンをつけた胸元に顔を寄せる。
「あらあら。急にどうしたんだい?」
お母さんは不思議がりながらも、抱き締めて頭を撫でてくれた。
「ひとりでいる間に、なにかあった?」
「ううん。ただ急に、家族っていいなって思ったの」
前世では、あれだけ欲しかった自分だけの『家族』。今の人生では、それが最初から存在しているんだ。