異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「あの……こんにちは」
次の日の午後、ミレイさんが緊張した面持ちでやって来た。
「いらっしゃいませ、お待ちしていました。ここだとベイルさんが来るかもしれないので、奥に行きましょうか」
休憩室に入ると、テーブルの上の紙束を見てミレイさんが口元を押さえた。
「これ……!」
「あ、昨日アルトさんとスイーツの候補を考えたんです。説明だけじゃわかりにくいと思って、イラストも描いてみたんですけど……。や、やっぱり下手でした?」
絵はそんなに得意なほうではない。それでも、クッキーがマドレーヌに見えないくらいは、うまく描けたと思うんだけど。
「いえ、いえ……! とても嬉しいです」
ミレイさんは、紙束の上にそっと手を乗せて涙ぐんだ。予想以上に喜んでもらえたみたい。
「それじゃあ、作戦会議を始めましょう!」
ミレイさんにもココアを淹れて、スケッチのひとつひとつを説明していく。
ハート型のココアマドレーヌ。ココア味のスポンジをチョコレートクリームでデコレーションしたチョコレートケーキ。チョコレートムースにチョコレートプリン。
その中でもミレイさんが気に入ってくれたのは、チョコレートクッキーだった。チョコペンをアイシングのかわりに使って、表面をデコレーションしている。ハート型のクッキーをチョコペンで縁取りしたり、プレーンのクッキー生地とチョコレート味のクッキーをあわせてチェック模様を作ったり。
「これがすごくかわいくて、目を引くわ」
「実は私も、このスイーツが一番気に入っているんです」
バレンタインで初めて手作りするチョコレートといえば、溶かして固めたチョコレートをデコったものや、簡単なチョコレートクッキーが定番だろう。いくらバレンタインに縁がないと言っても、私も前世で友チョコをもらったことはある。スイーツ工房らしく、それらの合わせ技にしてみた。恋する女の子のためのスイーツだから、ラブリーなデコレーションはぜひ取り入れたかったのだ。ふだんお店に並んでいるのは見た目もシンプルな焼き菓子が多いから。
「下準備はしておきますので、明日さっそく、作ってみませんか?」
「あ、明日、ですか……?」
ミレイさんは戸惑いの表情を浮かべた。このスイーツを作るということは、その日に渡して告白するということで――、そこまで急な話だとは思っていなかったのだろう。
私も、何日か時間を置いたほうがいいとは思ったのだが、急な準備を重ねたのには理由がある。
ちょうど明日が二月十四日……バレンタイン当日なのだ。
バレンタインが普及していないのだから日付は関係ないと思うのだが、この際ゲンをかつぎたい。
「わ、わかりました。ドキドキしたまま待っているよりは、明日勇気を出してしまったほうがいいかもしれません。明日、よろしくお願いします!」
ミレイさんは握りこぶしを作って私に頭を下げた。
「はい! 素敵なスイーツを作りましょうね」
次の日の午後、ミレイさんが緊張した面持ちでやって来た。
「いらっしゃいませ、お待ちしていました。ここだとベイルさんが来るかもしれないので、奥に行きましょうか」
休憩室に入ると、テーブルの上の紙束を見てミレイさんが口元を押さえた。
「これ……!」
「あ、昨日アルトさんとスイーツの候補を考えたんです。説明だけじゃわかりにくいと思って、イラストも描いてみたんですけど……。や、やっぱり下手でした?」
絵はそんなに得意なほうではない。それでも、クッキーがマドレーヌに見えないくらいは、うまく描けたと思うんだけど。
「いえ、いえ……! とても嬉しいです」
ミレイさんは、紙束の上にそっと手を乗せて涙ぐんだ。予想以上に喜んでもらえたみたい。
「それじゃあ、作戦会議を始めましょう!」
ミレイさんにもココアを淹れて、スケッチのひとつひとつを説明していく。
ハート型のココアマドレーヌ。ココア味のスポンジをチョコレートクリームでデコレーションしたチョコレートケーキ。チョコレートムースにチョコレートプリン。
その中でもミレイさんが気に入ってくれたのは、チョコレートクッキーだった。チョコペンをアイシングのかわりに使って、表面をデコレーションしている。ハート型のクッキーをチョコペンで縁取りしたり、プレーンのクッキー生地とチョコレート味のクッキーをあわせてチェック模様を作ったり。
「これがすごくかわいくて、目を引くわ」
「実は私も、このスイーツが一番気に入っているんです」
バレンタインで初めて手作りするチョコレートといえば、溶かして固めたチョコレートをデコったものや、簡単なチョコレートクッキーが定番だろう。いくらバレンタインに縁がないと言っても、私も前世で友チョコをもらったことはある。スイーツ工房らしく、それらの合わせ技にしてみた。恋する女の子のためのスイーツだから、ラブリーなデコレーションはぜひ取り入れたかったのだ。ふだんお店に並んでいるのは見た目もシンプルな焼き菓子が多いから。
「下準備はしておきますので、明日さっそく、作ってみませんか?」
「あ、明日、ですか……?」
ミレイさんは戸惑いの表情を浮かべた。このスイーツを作るということは、その日に渡して告白するということで――、そこまで急な話だとは思っていなかったのだろう。
私も、何日か時間を置いたほうがいいとは思ったのだが、急な準備を重ねたのには理由がある。
ちょうど明日が二月十四日……バレンタイン当日なのだ。
バレンタインが普及していないのだから日付は関係ないと思うのだが、この際ゲンをかつぎたい。
「わ、わかりました。ドキドキしたまま待っているよりは、明日勇気を出してしまったほうがいいかもしれません。明日、よろしくお願いします!」
ミレイさんは握りこぶしを作って私に頭を下げた。
「はい! 素敵なスイーツを作りましょうね」