異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「私、一目惚れって、顔とか見た目が一番大きな要素なんだと思っていました。違うんですね……」

 ミレイさんの話を聞くまで、こんな深いところまで見て好きになっているだなんて知らなかった。ベイルさんのいいところをいっぱい知っているはずなのに、ミレイさんの慎み深いところも知っているはずなのに、幼稚な考え方しかできなかったことが恥ずかしい。

「そうですね。その方の雰囲気とか、言葉の選び方とか、笑顔とか……。そういうところから相手の人柄って伝わるものですから。一目惚れといっても、無意識に相手の内面を受け取っていることが多いんじゃないでしょうか」
「すごい、ミレイさん……。恋愛上級者みたいです。ほんとにベイルさんが初恋なんですか?」
「ふふ。自分に経験がなくても、ほかの人の恋愛話は聞きますからね。耳年増なだけです。令嬢はみんな恋の話が好きですから」
「私もいつかそんな恋ができるでしょうか。すでに諦めている感は否めないですが……」

 二十三プラス十六年生きても縁がなかったのだから、急に恋愛ができるわけがないよなあとため息をつく。

「えっ、そうなんですか? 私はてっきり……」

 そこで言葉を切ったミレイさんが、ハッと真顔になった。

「そういえばエリーさん。オーブンの様子は見なくて大丈夫なんですか?」
「あっ」

 あわててオーブンの蓋を開けて焼き加減を見たけれど、セーフだった。「大丈夫でした」と手で丸を作ると、ミレイさんはホッとした顔で頷いた。

 危ない危ない。クッキーは焼き時間が短いから、おしゃべりに夢中になるとすぐに時間が過ぎてしまう。あとは魔法石で火加減を調節して、もう少し焼き色をつけよう。

 そういえばさっき、ミレイさんが言いかけた言葉はなんだったのだろう……。

 一瞬だけ気になったけれど、クッキーが焼けてデコレーションに移ってからは、そんなことはすっかり頭の中から消えていた。

< 59 / 102 >

この作品をシェア

pagetop