異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「今帰った」

 作業着の胸元をゆるめながら歩を進め、お母さん、私、双子の順番に頬にキスをしてくれる。

「お帰りなさい」

 髭を生やしていて筋肉質、一見怖そうな見た目だが、実は愛情深い人なのだ。工房の職人さんたちにも『親方』と呼ばれ慕われている。
 お父さんの働いている工房は家の近くにあるので、こうして毎日昼食を食べに帰ってきてくれる。

「お父さんも帰ってきたことだし、さっそく昼食にしましょうか。今日はエリーが特別なパンケーキを用意してくれたのよ」
「ほう、エリーが?」

 私を見つめる、彫の深い奥まった瞳がおだやかに細くなる。

「……うん」

 返事しながら、ぽりぽりと頬をかく。静かに期待されているようで、少し照れくさい。
 お母さんと一緒に料理やカトラリーを準備すると、テーブルの上が一気に華やかになった。

 真ん中の大きなお皿には、切り分けられたりんごのフライパンケーキ。たっぷり作ったスープもお鍋のままどん、と置いて、サラダと干し肉もある。カスタードクリームも器に盛って、スプーンを添えてある。

 メインをしょっぱいパンケーキに変えれば、素朴でおいしい、昼食の定番メニューだ。

「これは……パンケーキか? ずいぶん大きいが」

 りんごのフライパンケーキを見たお父さんは、案の定驚いた顔をしていた。

「そうよ~。昨日、お隣さんから砂糖をもらったでしょ。それを使った甘いパンケーキなんですって」
「砂糖……甘いのか……」とつぶやきつつも、お父さんは感心したような表情で顎鬚をさわった。
「それにしても見た目がずいぶんと美しいな。エリーはこんなにすごい料理が作れるようになったんだな」
「そうねえ。もう十六歳ですもんねえ」

 愛おしい目で私を見つめるお父さんとお母さんに、『うっ』と心が痛くなった。今の私には、二十三歳まで生きた記憶もある。精神年齢は十六歳の少女ではないのだ。前世の記憶が入ったことで、今までのエリーとまったく同じとは言えなくなったし、なんだか騙しているみたいで心苦しくなる。

 でも、転生なんて話しても信じてもらえないだろうしな……。

「さあ、食べましょ。エリーも早く座って」
「うん」

 複雑な気持ちになりながらも、とりあえず今は十六年ぶりのスイーツをくまなく味わおうと心に決めた。
 簡単なお祈りを捧げてから、お母さんがみんなの顔を見回す。

「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす!」

 エリーとコージーは、奪い合うように自分のお皿にフライパンケーキを乗せている。私は、お父さんとお母さんが終わってから自分のぶんを取った。
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