死神は優しかった
死神は優しかった



「ねぇ、この間のカレはー?ラブラブだったんでしょ?」



友達の恵美が缶ビールの蓋を開けながら容赦なくツッコんできた。


仕事が早く終わって暇だからと一方的に家に上がり込んできて、さらに傷跡を(えぐ)ってくるなんて迷惑な話だ。


でもなにかと頼ってしまうのがいつものこと。


しっかり者のためか、恵美には友達のほかに相談相手というイメージが定着している。



「……私、またダメだった」



ぽつりと告白する。


恵美にこのセリフを吐くのもこれで何回目なんだろう。



「え!またー?」



言葉では「え!」と言ってはいるものの、そこまで驚いた様子を見せないのがまた悔しい。



「私……もう恋なんてしないから。決めたの」


「歌詞かよ!あたしその曲知ってるよ、てーてーてれてれってー」


「歌うな!私真剣だから!もう死神の餌食にはならない!!」


「死神?なにそれ」




好きと思ったら終わり。


私はまた自分自身を傷つけてしまうことになる。


だから私は「私で遊ぶ人」を死神と呼ぶことにしている。


もちろんまんまと騙される私も悪いけど、でも死神だって同等の罪があるはずだ。



「死神ねぇ……」



恵美が含み笑いを浮かべながら頷いている。


何かいいたいなら言えばいいのに。


そう思いながら少し睨むと、ごめんごめんと両手を横に振った。



「芽衣はさ、どんな恋愛がいいの?」


「それはもう……」



どんな……



「慶くんみたいな人がぁ……」


「おい、未練たらたらじゃんか」


「だってぇ~」



田辺慶くん。


イケメンで背が高くて気配りもできる歯科医。


って、今思ったらめっちゃ不釣り合いじゃん……


なにこのハイスペックな男性……


大好きだった。でも彼は死神だった。


でもそんなこと、やっぱり最初っから予想できたのかもしれない。


もっと客観的になればよかった。


こんな人が私の事好きになるはずがない、早く目を覚ませ、と……



「私ってさ、幸せになっちゃダメって神様に言われてんのかな」


「へ?」


「でもさ、みんなが幸せになってたらこの世の中回らないもんね。こういう人が一人くらいいないとダメだからって、神様が私にしたんだよね」


「はぁ……」


「私を好きになる人は現れない。みんな死神。だから恋愛はもうしない方がいい……はぁ」



自然とため息がこぼれる。


神様、ホントにそうなんですか?


私の思ったことは正解なんでしょうか。



「元気出せって」


「無理だよ。大好きだったんだもん。大好きな人が離れて行って元気になれるわけない」



最後の言葉を思い出す。


‟これからは俺につきまとうなよ”


笑えてくる。


はは、めっちゃ私うざがられてんじゃん。
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