死神は優しかった
「きっと芽衣にもさ、素敵な人が現れるよ。そんな特別ブスとかでもないし、むしろ可愛いじゃん」
まぁまぁ一杯どうですか、と飲みかけの私のビールを渡してくる。
特に拒否することもなく、渡されたままぐいっと一気に飲んだ。
「それはね、高校からずっと一緒にいる友達だからそう思うの!なんだろ、仲間意識的なやつ?もうそーゆーの、いいから」
「別に本心だし~」
頭がくらくらしてきた。
もともとお酒は強いほうじゃない。
缶二杯を一気に飲み干したから、さすがに体も悲鳴をあげているのかもしれない。
「あ、あたしそろそろ帰るね」
時計を見るともう午後10時だった。
時間ってたつの早いんだなぁ……
漠然とそう思って気づく。
あれ、私なんかおばあちゃんみたい?
「駅まで送ってくよ。私買わなくちゃいけないもんあってさ、結局コンビニ行くことになるから、そのついでに」
「まじー?ありがと」
えーっと、と財布やら携帯やらを肩掛けバッグに突っ込んで、代わりに鍵を取り出す。
「あ、恵美、おつまみ持って帰る?」
「あーいいよ、芽衣が食べて」
駅まで歩いてだいたい5分。
お酒に火照った体には少し冷たいくらいの夜風が心地いい。
「じゃ、またねー」
「ん、また」
改札の奥に消えていく親友に手を振って、深呼吸をした。
……うっ
お腹から喉元にかけてに違和感が走る。
飲み過ぎちゃったなぁ……
嫌なことがあると酔って忘れたくて、ついたくさん飲んでしまう。
今回もそのパターンだ。
急いで駅のトイレに駆け込んで、個室の鍵を閉める。
あぁ、私ってほんとみじめだ。
全部自業自得なのに。
バカだなぁ、ほんと。
やっと落ち着いて、個室の扉を開け、手を洗う。
鏡に映る自分は濡れていた。
もう、いっそこのまま雨が降ればいいのに。
この涙も一緒に洗い流してくれればいいのに。
ハンカチをポケットにしまって、トイレを出た。
「わっ」
「あ、すみません」
誰かにぶつかってそのまま派手に崩れ落ちた。
駅前を歩くサラリーマンたちは、そんな私に見向きもせず素通りしていく。
しゃがみこんだまま、上を見上げた。
空にはいくつもの星がきらきらと輝いている。
あいにく、雲は一つもなかった。