死神は優しかった
「おはよー芽衣!」
「あ、おはようございます」
そうこうしているうちに他のメンバーも集まってきて、仕事の準備をし始める。
私もそろそろ準備に手をつけなきゃいけない時間だけど、どうしても佐藤先輩のアシスタントにつくということが頭から離れず、ずっとおろおろしたままだった。
「ねぇどうしたの、芽衣。なんか今日おかしくない?」
「え、あ、いや……」
特に仲のいい片岡七海先輩が声をかけてくれるけど、うまく言葉が出てこない。
「珍しくコーヒーも飲んでなかったみたいだし。どうしたのよ、ほんとに」
「ねぇ芽衣ちゃん」
「……あ、」
「えっ……」
七海先輩に冗談っぽく肩を叩かれて、笑ってごまかそうとしたとき、
佐藤先輩が私の腕を引っ張って強引に壁の方へ連れて行った。
七海先輩の驚く顔がチラッと見えて胸が痛む。
……七海先輩は、佐藤先輩がずっと前から好きだったんだ。
それを、私は知っているから、……何も、言えない。
「……ごめん、ほんとに強要するつもりはないから。返事はまた今日の終わりに訊きに行く。俺的にはやっぱ芽衣ちゃんに手伝ってもらいたいけど、それは、うん、希望、だから」
「……は、はい」
「じゃ、今日も頑張れよ」
佐藤先輩にこくこくと頷いて見せると、満足したように笑って自分の部屋へと向かっていった。
私の勤める美容室は完全個室制で、美容師はそれぞれ自分の部屋を持っている。
それぞれが自分好みに部屋を飾って、各々の‟らしさ”で勝負していくためだ。
私の部屋は南国風にアレンジしていて、アロマも軽く焚いている。
他の人の部屋は見に行ったことがないけど、お客さんの話によると、佐藤先輩の部屋もかなりカッコいいと評判らしい。
ちょっと覗いていたい欲は……なくはない、のだ。
「……はぁ、どうしよ」