女王様の言うとおり
☆☆☆

絶対に誰からもキスをされないこと。


そんなの気を付けなくたってできることだった。


誰彼問わずキスをすることなんて滅多にあることじゃない。


でも……今は非常事態だった。


どのくらい感染していて、誰が感染しているかもわかっていない。


もしもクラスメートに呼びだされて無理矢理にでもキスをされたら感染してしまうだろう。


そう考えたあたしは少しでも時間稼ぎができるようにマスクを付けることにした。


こんなことしたって大した効果は得られないかもしれないけれど、マスクをしているだけでも安心することができたのだ。


「田村、ちょっとこっち来いよ」


男子生徒の1人が文庫本を読んでいた生徒に声をかけるのが見えて、トイレから戻って来たあたしは一旦足を止めた。


声をかけた方の男子は大西さんにキスをされた生徒だったからだ。


田村と呼ばれた男子生徒は瞬きを繰り返しながら文庫本を机にしまった。


「僕になにか用事?」


首を傾げている田村君の腕を掴み、半ば強引に教室から出ていく2人。
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