女王様の言うとおり
あたしは覚悟を決めて女子トイレを出た。


廊下は相変わらず静かで人の声は少しも聞こえてこない。


みんな大人しく眠っているのだろう。


あたしは足音を殺しながらそっと前進する。


ナースステーションの光が右手から洩れて見えている。


あたしは光の前にさしかかったとき、四つん這いになり身を屈め。はいはいするように移動を開始した。


ナースステーションからは微かな話声が聞こえて来る。


人がいるみたいだ……。


あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。


背中にジワリと汗が滲んでくるのを感じる。


今すぐ逃げ出してしまいたい感情に支配されるが、それでも前進を続けた。


たった数メートルというナースステーションの距離が永遠のように長く感じられ、呼吸まで止めてしまう。


やがて階段が視界に見えた。


それでも焦る気持ちを押し殺し、ゆっくりゆっくり近づいていく。

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