Bitter Sweet

咲良以外は無理-蓮斗side-

-蓮斗side-


3月22日の朝、登校する。


離任式ってめんどくさいけど、離任式終わったら咲良に会えるから少し心が張り切っている。


教室に入ったら、クラスの奴らがなんか騒いでる。


「なんかあったのか?」


「木崎先生が転任するんだって」


「野沢、それ本当か?」


野沢 七海(のざわ ななみ) 中学校からクラスずっと一緒。野沢はテンションが高く、明るいから交友関係が広い。だから情報をたくさん持ってるんだろう。


「本当だよ、さっき部活ノートを出しに職員室に行ったら、木崎先生の机なにもなかった。」


もう確定だ……


なんで転任するんだろう、たまたまだよな、それしかない。離れても遠距離恋愛になるだけで、なにも悲しいことない。


でも、消えない。なにか嫌な予感がするこの気持ち。


「碧海、咲良が転任するんだけどなんか知ってるか?」


体育館に向かいながら碧海に聞く。


「どこに転任するか知らない、他の先生は全員分かるんだけど、因みに市川も転任するんだって、市川は確か……門崎南(かんざきみなみ) 高校」


「またバスケの強えところに行くんだな、いや、市川よりも咲良だよ、咲良どこに行くか知らない?」


「木崎からなにも聞かされてないのか?」


「まぁ」


「それもしかしたら…」


「なんだよ」


「いや、直接聞け」


「なんでだよ」


「直接確かめるんだ、俺の勝手な憶測じゃなくて木崎からの事実を聞くんだ」


「分かったよ…」


離任式が始まった。


離任する先生が入場してくる。


白いブラウスに薄いピンクのズボン。


いかにも咲良らしい。でも、俺があげた時計をそてない…


あげてから毎日していてくれたのに。


それだけでショックなのにこれからどんなショックが待ち侘びているんだ…


どんなことにも動じない俺だけど今回ばかりはなんか怖い。


咲良は下を向かずにステージから真っ直ぐ見つめている。


校長が離任する先生の紹介をしていく。


咲良の番。校長は転任先を言わない。何故だ。


咲良の離任は訳ありだな…


まさかあの親父…俺のこと気づいたのか?それで咲良を……


そんなことはない。ない。ないぞ。絶対にない。


でも、あいつならするかも……


いや、ない。


「蓮斗のしたいことをしなさい、蓮斗の全てを受け入れる」って言ってくれた。


俺はこの言葉をすんなり受け入れることができたんだ。理由は自分でもよくわからないけど。


じゃなんで…


もう本人に聞くしかない。


離任式が終わりすぐに咲良の所に行こうと思ったが、先生達が集まっていて行けなかった。


最後のホームルームで咲良が最後の挨拶をする。


明るく挨拶をしているけど、瞳の裏では泣きそうな目をしている。


集合写真を撮り終えて、咲良は教室を去る。


これで俺らも解散だと思ったが、尾川先生が課題のこととか諸連絡を話し始めた。


これじゃ咲良からなにも聞けない。


俺は教室を飛び出して咲良に話しかけた。


俺と話している咲良は冷静を装ってる、教師をなんとか演じている気がした。


「ごめん、それしか言えない、ホームルームに戻って」



ただそれしか言わない。


なんでだ、他に言うこともっとあるだろ。


それに俺ら別れないよな?になんでなにも言わねえんだ…訳わからない。いきなり頭が痛くなってきた。そして咲良は廊下からいなくなった。


俺はなにがなんだかわからずにトボトボ歩いて教室に戻る。


「蓮斗、座れ」


「はい」


「蓮斗は碧海から諸連絡のこと聞けよ、じゃ以上」



「蓮斗、大丈夫か?木崎から聞いた?」


「なにも言ってくれなかった、てか、俺、羽柴の所に行かないといけないから行くわ。」



「頭痛いのか?目眩でもするのか?」


「いや、大丈夫」


頭痛いなんて言ってる場合じゃない。


どうして咲良は転任するのか。


なんで前もって俺に言わなかったんだ。


そして、俺と咲良はどうなるのか。


職員室に羽柴がいない。


まだホームルームか?


だったら、職員室の前で待つしかない。


待っていたら、校長室のドアが開く。


出てきたのは親父だった。


「入りなさい」


親父はそれしか言わなかった。


親父は俺が聞きたいことを知っているんだろう。


「蓮斗はオレンジジュースが好きだったな」


「それはどうでもいい」


「落ち着け、話すから」


俺の前に氷の入ったオレンジジュースが運ばれる。


それを一口飲むと、冷たくて少し頭が冷えて落ち着くことができた。


「木崎先生の転任は木崎先生の希望だ」


「……は?」


一瞬で頭から足先まで体が固まった。


「木崎先生はお前と別れると言っていた。俺が強制したものではない、木崎先生が蓮斗のために別れると言っていた。」


「俺のため?俺のためなんかじゃない!」



「俺は去年の秋から気付いていた、お前達の交際に、俺は応援したかった。校長なんだがな」


「なんで……」


「本当に木崎先生のおかげでお前が変わったし、2人で愛し合ってる感じが伝わってきた、勿論、木崎先生は学校では教師としてしっかり頑張ってくれていたよ」


「もし、俺が新人戦に来なかったら気付いてなかったかもな」


「じゃ、その時に気づいたのか?」


「お前が木崎先生を見ていた目は愛しい女性を見ている目だった、愛しい、尊敬しているような目にも見えたな、それで木崎先生も羽柴先生に隠れたけど、お前のこと一生懸命に応援してた、点数入れたらはしゃいで、足怪我したと知ったらめっちゃ心配そうにして、あれは教師に見えなかったな」



「鋭いね」


「なのに木崎先生は別れを選択した。その理由は本人から聞くべきなんじゃないか?」


「その本人がいないんだよ」


「木崎先生、なにか残していなかったか、手紙とか」


手紙…


もしかして、羽柴のところに行けば全てが分かるって…



「俺、出るわ」


もう職員室いるかな。


デスクに座っていた羽柴先生。


「待ってたわよ、図書館に行きましょう」


図書館には電気もついてない、羽柴が鍵を持っている。閉まっていたのだろうか。


「教室が午後から一斉清掃で業者が入るから、ここでしか話せないの」


「話せるならどこでもいいんで」


「蓬莱くんが話す前に私から話していい?」


「はい」


「咲良の判断を恨まないでほしいの、理解できないかもしれない、時間かかっても咲良の思いを吸収してほしい、それでこれ、咲良から預かってるもの」


羽柴から渡されたのは白い封筒。中には手紙だろう。後はなんかぶつぶつしたもの。なんだろう。早く見たいけど、図書室の先生に怒られるから早く出てと言われ、家に帰る。


電車で帰る途中で見ようかと思ったけど泣くかもしれないと思い、家に帰って見ることにした。


家に着き、カバンを無造作に投げて、制服のままリビングに座って封筒を開ける。


中には手紙と、俺のマンションの合鍵…


もう書かれている内容は想像がついた。


でも咲良の思いがこの手紙に全て書いてあるこの手紙を読まないわけにはいかなかった。俺は今にも息が詰まる思いで手紙を読むことにした。
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