イケナイ王子様
今の言葉は、ただのひとりごとと決めつけることにためらうようなものだった。


なんでわざわざそのことを……?


知らなくていいよね。


知らないほうが幸せなことだってあるし。


それに、翔さんに『誰にも渡したくない』って言われて、嬉しい自分がいる。


とにかく今は、なにも聞かないでおこう。


「……じゃあ、俺、行くわ」


突然、そんなことをつぶやく翔さん。


「行くって、ど、どこに……?」


なんでだろう。


自分の声がかすかに震えちゃったのは。


「高校時代の友達と会う約束してんだよ。


だから、友達と会う準備をしに、自分の部屋に行くわ」


「は、はぁ……」


なんとなく安心した……。


安心する私を見て、翔さんが目を細めながら微笑み、部屋を出ていく。


しかし、本当に友達に会いにいくのかと不安になり、完全に安心できなかった。
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