イケナイ王子様
洋季さんは悪い人じゃないし、嘘をつく必要はないのに。


だけど、気づいたらそう言ってしまった。


あぁ、私、バカだな……。


自分のことばっかり考えてて、洋季さんのことはまったく考えてないし……。


人間として失格じゃん。


はぁ……。


ため息をつく私を軽くスルーして、洋季さんが私から離れる。


「愛海ちゃん。


俺、受付で入場券を買うから、近くで待ってて」


「はい……」


洋季さんに声をかけられても、私はそんな返事をすることしかできなかった。


自分が愚かだと思ったから。


受付の近くで待ってからわずか十数秒で、洋季さんが戻ってきた。


「お待たせ。


じゃあ、中に入ろうか」


「……はい」


洋季さんがこちらに手を差しだしても、手をつなぐ気にはなれない。


洋季さんは、そんな私を見て手を引っ込め、心配そうな顔をしていた。
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