敏腕弁護士との政略結婚事情~遅ればせながら、溺愛開始といきましょう~
後継者に指名されただけではないことに困惑が強く、無自覚のうちに声に出して聞き返してしまった。
「待ってください。それは、いったいどういう……」
「この世に残す未練を、別々の人間に分けたくないんだよ。両方とも、信頼できる人間に一括して委ねたい。おかしいか?」
所長が、まるで値踏みするような目で、彼の反応を観察しているから、グッと声をのむ。
「僕は、葵さんを妻に娶って、事務所を継ぐ。……そういう解釈で、正しいですか」
まずもって、『所長が心血を注いだもの』の解釈が間違っている可能性もある。
櫂斗は言葉を選びながら、答えと同時に真意を窺った。
「ああ」と首を縦に振って返され、ごくりと喉を鳴らす。
(だから、所内での噂を聞き留めて、俺の交友関係なんかを探ったりしたのか)
視線を横に逸らして逡巡する彼に、所長がグッと身を屈めて乗り出してくる。
「事務所だけならともかく。信頼できる部下とはいえ、他に女がいるようでは、さすがに大事な娘は任せられない」
心の奥底を見透かす視線の前で、櫂斗はぎゅっと唇を結んだ。
「だが、ただの噂なら問題ない。それとも、事務所の外に大事な女がいるか?」
「……いません。そんなもの」
「ならば、真剣に考えてみてくれないか」
所長の目を見つめ返したものの、そこにどんな真意があるのか、彼には見つけることができなかった。
「待ってください。それは、いったいどういう……」
「この世に残す未練を、別々の人間に分けたくないんだよ。両方とも、信頼できる人間に一括して委ねたい。おかしいか?」
所長が、まるで値踏みするような目で、彼の反応を観察しているから、グッと声をのむ。
「僕は、葵さんを妻に娶って、事務所を継ぐ。……そういう解釈で、正しいですか」
まずもって、『所長が心血を注いだもの』の解釈が間違っている可能性もある。
櫂斗は言葉を選びながら、答えと同時に真意を窺った。
「ああ」と首を縦に振って返され、ごくりと喉を鳴らす。
(だから、所内での噂を聞き留めて、俺の交友関係なんかを探ったりしたのか)
視線を横に逸らして逡巡する彼に、所長がグッと身を屈めて乗り出してくる。
「事務所だけならともかく。信頼できる部下とはいえ、他に女がいるようでは、さすがに大事な娘は任せられない」
心の奥底を見透かす視線の前で、櫂斗はぎゅっと唇を結んだ。
「だが、ただの噂なら問題ない。それとも、事務所の外に大事な女がいるか?」
「……いません。そんなもの」
「ならば、真剣に考えてみてくれないか」
所長の目を見つめ返したものの、そこにどんな真意があるのか、彼には見つけることができなかった。